仕事帰り、家路を急ぐ私の頭の中には、明確な「目的地」と「獲物」がありました。 その目的地とは、庶民の味方でありながら圧倒的なクオリティを誇るスイーツの聖地、シャトレーゼ。そして狙っていたのは、あの独特の食感がたまらない「もちどら焼き」です。

「今日はあのモチモチした生地とあんこの調和を楽しみに、一日頑張ったんだ」 そんな決意を胸に、私はハンドルを握っていました。しかし、人生には予期せぬ誘惑が待ち構えているものです。明日の朝食用のパンを切らしていたことを思い出し、便宜上立ち寄ったのが、近所のセブンイレブンでした。
これが、すべての計算を狂わせる「運命の分岐点」になるとは、その時の私は知る由もありませんでした。
デザートコーナーで出会った、魔性の「おすすめ」

パンコーナーへ向かうはずの足が、磁石に吸い寄せられるようにデザートコーナーへと逸れていきました。そこで私の視線を釘付けにしたのは、淡いピンクの春めいたパッケージ。
「もっちり焼き上げた いちごクリームどら」
その名前を目にした瞬間、私の脳内にある「シャトレーゼのもちどら焼き」という絶対的な座標が、わずかに揺らぎました。同じ「もっちり」という属性を持ちながら、そこには「いちご」と「クリーム」という、春の華やかさが加わっていたのです。
追い打ちをかけるように、パッケージの端にはあの魔の言葉が躍っていました。 赤い丸に白抜き文字の、「おすすめ」。
この一言に、私はめっぽう弱いのです。 世の中のマーケティング担当者は、私のようなオジサンの心理を熟知しているのでしょう。「おすすめ」と言われると、「プロがわざわざ推すからには、ここには何か特別な体験があるに違いない」と、盲目的に信じてしまう。もはやそれは、一種の「信頼関係」に近いものです。
結局、シャトレーゼへの未練を振り切り、私はこの「いちごクリームどら」を手に取っていました。今日、私はまっすぐ家に帰る。この「おすすめ」を信じて。
なぜオジサンは、歳を重ねるほど甘いものに弱くなるのか?
最近、同世代の仲間と飲んでいても、話題が「病気の話」の次に「スイーツの話」になることが増えました。 「昔は酒とタバコさえあれば何もいらなかったのに、最近は帰りにコンビニスイーツを買わないと一日が終わった気がしないんだよな」 そんな苦笑い混じりの告白が、あちこちで交わされます。なぜ、私たちのような「高めの年齢層」の男性が、これほどまでに甘いものに惹かれるのでしょうか。この現象を少し深掘りしてみました。
1. 脳が求める「即効性の報酬」
私たちオジサン世代は、職場でも家庭でも、常に「責任」という名の重圧にさらされています。複雑な人間関係、数字のプレッシャー、あるいは将来への漠然とした不安。脳は常にフル回転で、神経をすり減らしています。 そんな脳が最も効率的な燃料として欲するのが、ブドウ糖です。ストレスフルな一日を終えた時、脳は手っ取り早く「報酬系」を刺激し、ドーパミンを放出させる手段として、甘味を求めます。これはもはや嗜好品というより、生存本能に近い「精神の応急処置」なのかもしれません。
2. 「癒やし」の象徴としてのクリームという逃避行
今回の「いちごクリームどら」もそうですが、近年のコンビニスイーツの進化は、特に「クリーム」の質に表れています。 どら焼きという、古き良き日本の安心感。そこに、たっぷりとしたホイップクリームという西洋の背徳感が加わる。この「和洋折衷」の包容力が、戦士としての仮面を脱いだオジサンの心を、優しく包み込んでくれるのです。クリームの白さと柔らかさは、日常の殺伐とした風景を忘れさせてくれる、一時的な「シェルター」のような役割を果たしているのではないでしょうか。
3. 「限定・おすすめ」という権威への、不器用な信頼
オジサンは、どこかで「公式」や「プロ」の言葉を信じたい生き物です。 自分で一からトレンドを追うのは大変ですが、セブンイレブンのような巨大チェーンが「これは良いものです」と太鼓判を押してくれるなら、そこに乗るのが一番合理的で安心できる。この不器用なまでの信頼感が、あの「おすすめ」シールを最強の誘惑に変えているのです。
いざ実食!「いちごクリームどら」の破壊力

帰宅後、さっそく丁寧に淹れたコーヒーとともに、「いちごクリームどら」を迎え撃ちました。
まず、袋から取り出した瞬間の触感に驚かされます。 「もっちり焼き上げた」の言葉に嘘偽りはありません。指先に吸い付くようなしっとり感、そして赤ちゃんの肌のような弾力。シャトレーゼのもちどら焼きを彷彿とさせつつも、それとはまた違う「洋」の繊細さを感じさせます。

一口頬張ると、その構造の妙に唸らされました。 中心にあるのは、甘酸っぱいいちごソース。それが、軽やかながらもしっかりとしたコクを感じさせるホイップクリームと混ざり合います。 特筆すべきは、いちごの「酸味」のさじ加減です。甘いだけでなく、キュンとするような酸味が効いているおかげで、しつこさが全くありません。これが、甘すぎるものが苦手なはずのオジサンでもペロリといけてしまう秘密でしょう。

気がつけば、最後の一口を飲み込んでいました。 あんなにシャトレーゼに行こうと固く決めていたのに、今の私の心にあるのは、「セブンに寄って、この『おすすめ』に従って本当に良かった」という、清々しいほどの満足感でした。
結論:オジサンの甘党は「自分への小さな表彰式」
「いい歳して甘いものなんて恥ずかしい」 そんな風に自分を卑下する必要は、もうありません。 一日の終わりに、コンビニでわずか数百円を支払い、甘いご褒美を手に入れる。それは、理不尽な上司に耐え、満員電車に揺られ、家族のために踏ん張った自分に対する、最も手軽で、最も確実な「表彰式」なのです。
私たちは「おすすめ」シールに負けたのではありません。 自分を労わり、明日への活力を蓄えるための「最善の選択」を、自らの意思で行ったのです。
シャトレーゼのもちどら焼きは、また今度の楽しみにとっておきましょう。 次はどんな誘惑が私を待ち構えているのか。セブンイレブンのデザートコーナーという名の「戦場」から、当分は目が離せそうにありません。
オジサン仲間の皆さん、今夜はどんな「表彰式」を開催しますか? もし迷ったら、あの「おすすめ」シールを探してみてください。きっと、裏切らない幸福がそこにあります。

