「今般、〇〇の閣議決定を行いまして……」 「先般、お約束した通り……」
ニュースを見ていると、政治家や行政 of 担当者がよく使うこれらの言葉。皆さんは日常生活で「今般、夕食の献立を決めまして」なんて言いますか? おそらく言わないはずです。
平成24年、岐阜県中津川市の行政管理課が発表した『お役所言葉改善の手引きーサービスは分かりやすい言葉からー』という資料が、今改めて注目されています。そこには、まさに私たちが感じる「違和感」の正体が記されていました。
今回は「今般」と「先般」の意味の違い、そしてなぜこれらの言葉が「心理的な壁」を作ってしまうのかについて考えてみましょう。
「今般」と「先般」の意味と違い
まずは、辞書的な意味をおさらいしましょう。
今般(こんぱん)
- 意味: 今回。このたび。
- ニュアンス: 「今まさに起きていること」や「今回新しく決まったこと」を指します。
先般(せんぱん)
- 意味: 先日。このあいだ。
- ニュアンス: 「少し前の過去」を指します。昨日や一昨日というよりは、数日から数週間前の出来事を漠然と指すことが多いです。
違いのまとめ
- 今般 = Now / This time(今回)
- 先般 = A while ago(このあいだ)
どちらも硬い改まった表現であり、主にビジネス文書や公的な場でのみ使われます。
なぜ「お役所」や「政治家」はこれを使うのか?
中津川市の「お役所言葉改善の手引き」では、これらの言葉を「分かりやすい言葉」に言い換えるべきだと明記されています。
- 今般 → 「今回」「今度」「このたび」
- 先般 → 「このあいだ」「先日」
なぜ、わざわざ難しい言葉を使うのでしょうか。
「一般庶民とは違う」という意識の表れ?
政治家がこれらの言葉を見て「一般庶民とは違う、特別な層であるという意識(特権意識)があるのではないか」と感じる方もいます。私もその一人です。
実は、その感覚はあながち間違いではありません。 難しい言葉(専門用語や古風な表現)を使うことで、自分たちの立場を権威付けし、内容を「もっともらしく」見せる効果があるからです。しかし、これは裏を返せば、「聞き手との間にあえて距離を置いている」とも言えます。
「分かりやすく伝える」ことよりも「格式を保つ」ことを優先した結果、国民や市民との心の距離が開いてしまうのです。
「今般」「先般」だけじゃない!私たちを「けむに巻く」英語の略語
「今般」「先般」といった古めかしい言葉だけでなく、最近ではアルファベットの略語も新たな「壁」として立ちはだかっています。
中津川市の手引きでは、こうした略語についても「一般的に定着していないものは使わない」「使う場合は必ず注釈を入れる」といった配慮を求めています。
- DX(デジタルトランスフォーメーション)
- 「行政のDXを推進します」と言うより、「役所の手続きをスマホで完結できるようにします」と言ったほうが、私たちにはずっと伝わります。
- EBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング)
- 「証拠(データ)に基づく政策立案」という意味です。要は「勘や経験ではなく、数字を見て判断しましょう」という当たり前の話です。
- SDGs(エスディージーズ)
- 安易に略語を並べることで、かえって「取り組んでいるポーズ」だけに見えてしまう危険性もあります。
「イット」と呼んだあの頃の親しみやすさ
略語といえば、かつてIT(アイティー)のことを「イット」と呼んでしまった政治家がいましたね。
当時は失笑を買ってしまいましたが、今思えば「無理して新しい言葉を使おうとしていたんだな」と、なんだか微笑ましくも感じられます。分からないことを分からないと言えず、必死に背伸びをしていたその姿は、今の冷徹なまでに横文字を使いこなす政治家よりも、ずっと「人間味」があった気がしませんか?
「そんなに無理して難しい言葉を使わなくていいですよ、政治家の皆さん」と思わず言いたくなってしまいます。私がオジサンだから、よ~く分かります。背伸びをして「イット」と言うよりも、自分たちの使い慣れた言葉で、私たちの心に届く話をしてもらう方が、よほど信頼できるはずです。
難しい言葉より「5W1H」を!
「今般」「先般」や「DX」といった言葉を並べ立て、結局「いつまでに、誰が、何をするのか」がさっぱり分からない……そんな政治家の発言を耳にすることはありませんか?
中学生の頃、国語や英語の授業で「5W1H(いつ、どこで、だれが、何を、なぜ、どのように)」という基本を習ったはずです。これは情報を正確に伝えるための最小単位。しかし、立派な肩書きを持つ政治家が、この中学生レベルの基本を疎かにし、難しい言葉で煙に巻こうとする姿には、正直がっかりしてしまいます。
意味不明な専門用語で武装する前に、まずは「いつまでに何をするのか」を明確に語る。そんな当たり前のことができない政治家を、私たちは信頼して支持することはできません。
週刊誌のゴシップはワイドショーに任せなさい
さらに言えば、言葉の難しさ以前に「議論の質」についても疑問を感じることがあります。
国会の貴重な審議時間、つまり私たちの税金が使われている時間を使って、週刊誌を片手にゴシップの追及に終始する政治家の姿。それを見て、「これが一体、国益の何に役立つのだろう?」と独り言を漏らしてしまうのは、私だけではないはずです。
スキャンダルやゴシップの類はワイドショーに任せておけばいいのです。国を代表する場であるなら、難しい言葉で「やった・やらない」の不毛なやり取りをするのではなく、この国の未来をどう「5W1H」で形作っていくのか。そこを語ってほしいものです。
「サービスは分かりやすい言葉から」という大原則
中津川市の手引きが掲げる「サービスは分かりやすい言葉から」というタイトルは、非常に本質的です。
行政サービスも政治も、その対象は私たち市民です。相手に伝わらない言葉を使うことは、サービスとしての質が低いと言わざるを得ません。
- 「今般の決定」と言うより、「今回の決定」と言ったほうが、スッと胸に落ちます。
- 「先般の件」と言うより、「先日の件」と言ったほうが、親近感が湧きます。
言葉を平易にすることは、決して知性が低いことではありません。むしろ、「相手の立場に立って、誤解なく伝える」という高度な配慮なのです。
私たちが目指すべきコミュニケーション
もし皆さんがビジネスの場で「今般」「先般」や難しい略語を使おうとしたら、一度立ち止まってみてください。
「この言葉を使って、相手に壁を感じさせていないか?」 「丁寧さを勘違いして、単に難しい言葉を選んでいないか?」
中津川市の取り組みのように、まずは公的な機関から「言葉の壁」を取り払っていくこと。そして私たちも、権威に頼らない「伝わる言葉」を大切にしていきたいものです。
政治家の皆さんも、「一般庶民」と同じ目線で、同じ言葉で語ってくれるようになったとき、日本の政治はもっと身近なものになるのかもしれません。中津川市のPDFを見てほしいと強く思います。
参考: 岐阜県中津川市総務部行政管理課:お役所言葉改善の手引きーサービスは分かりやすい言葉からー(PDF)

